Rails の scope をあまり使わない方がいい理由
1. Rails の scope とは
Rails には scope という便利機能があります。
https://railsguides.jp/active_record_querying.html#%E3%82%B9%E3%82%B3%E3%83%BC%E3%83%97
例えば
class Article < ApplicationRecord scope :draft, -> { where(published_at: nil) } end
のように定義しておけば、下書きの一覧を表示するページで
Article.draft.order(updated_at: :desc)
などと呼び出せるようになります。
これはコードを短く書く上で有用な方法のひとつです。
何をしたいのかわかりやすいコードとなることでしょう……本来は!!
2. ダメンズメーカーの scope
しかし、実際のところそうはなりません。
scope の定義をまとめている箇所が、以下のようなダメなコードの養殖場となっているケースをよく見ます。
class User < ApplicationRecord has_many :articles has_and_belongs_to_many :roles, join_table: :users_roles scope :latest_users, -> { order(created_at: :desc).first(5) } scope :rank1_writer, -> { find_by(id: Article.pluck(:user_id).group_by(&:to_i).values.max_by(&:size).first) } scope :admin, -> { where(deleted_at: nil).select{ |user| user.roles.map(&:key).select{ |key| %w(super_admin admin).include?(key) } } } scope :active_writers, -> { latest_articles = Article.order(:updated_at).last(10) + Article.order(:created_at).last(10) where(id: latest_articles.pluck(:user_id)) } end
Rails のコードを複数社で見たことがある人は「ああ〜わかる〜」とうなずいてくれるかもしれません。
私がコードを書くときに意識していることとして、
「たとえ、既存コードのコピペでコードのほとんどを書くエンジニアが引き継ぐことになっても、ある程度回るようにしたい」
という思いがあるので、その観点でいくと、
「scope って使うべきではないのでは?」 と感じていますので、その理由をここではまとめます。
3. scope を使うべきでない理由
3-1. 1行で書こうとしてしまう
上の例では複数行で書いている例も混ぜましたが、基本、scope は1行で書くことが多いです。
それにならって他の人も1行で書こうとします。
そうして出来上がるのが以下のような、複雑な処理です。
scope :rank1_writer, -> { find_by(id: Article.pluck(:user_id).group_by(&:to_i).values.max_by(&:size).first) } scope :admin, -> { where(deleted_at: nil).select{ |user| user.roles.map(&:key).select{ |key| %w(super_admin admin).include?(key) } } }
一見しただけでは何をしているのかわかりにくいです。
よく言われることですが、Ruby は短くコードが書けてしまうぶん、
可読性の低い1行の処理を書けてしまうので注意が必要です。
scope で書かれているメソッドは、何のクラスが返ってくるのか
一見してわからないことが大変よくあります。
3-2. コメントが書かれないことが多い
たとえ「メソッドの上部に yard に従った説明コメントを書くこと」という開発ルールがある会社でも、
scope にはコメントが書かれていないことがよくあります。
scope がメソッドであると意識されていないためです。
こうして、なんの処理をしているのか一見してもわからないメソッドが誕生してしまうのです。
scope でなくクラスメソッドを使うのであれば、3-1. や 3-2. の問題を回避できる可能性が高まります。
# もっとも記事を書いている User を返す。Article が1件もないときのみ nil を返す # @return [User] def self.rank1_writer writer_ids = Article.pluck(:user_id) most_wrote_writer_id = writer_ids.group_by(&:to_i).values.max_by(&:size)&.first User.find_by(id: most_wrote_writer_id) end # super_admin もしくは admin の権限を持つ User の一覧を返す # @return [Array<User>] def self.admin undeleted_users = User.where(deleted_at: nil) undeleted_users.select do |user| user_role_keys = user.roles.map(&:key) user_role_keys.select do |key| %w(super_admin admin).include?(key) end end end
なんの処理をするメソッドか書いたおかげで、
メソッド名のひどさが際立ちましたが(笑)、
ともかく、変数名の自己ドキュメント化の要素も加わり、どういう処理でどんな値を返すのか、とてもわかりやすくなりました。
余談ですが、 self.admin
メソッドは N+1 問題を発生させているヤバいコードです。
undeleted_users の数だけSQLクエリが発行されます。
3-3. テストコードが書かれないケースが多い
scope がメソッドであると意識されないゆえにテストコードが書かれないケースが多いです。
冒頭で紹介した
scope :draft, -> { where(published_at: nil) }
であれば、そのまますぎるのでテストコードを書く必要もないわけですが、
scope :rank1_writer, -> { find_by(id: Article.pluck(:user_id).group_by(&:to_i).values.max_by(&:size).first) } scope :admin, -> { where(deleted_at: nil).select{ |user| user.roles.map(&:key).select{ |key| %w(super_admin admin).include?(key) } } }
などの明らかに複雑な処理であればテストコードは書かれるべきです。
例えば rank1_writer メソッドは Article が1件もない場合に undefined method 'first' for nil:NilClass
でエラーを吐くバグがありますしね。
4. scope を使うのであれば
チーム開発において scope を使うのであれば、
以下のルールを徹底すると多少マシになるかと思います。
4-1. ActiveRecord::Relation を返すように義務付ける
個人的には scope って ActiveRecord::Relation を返す目的で使うものだと思っていたのですが、
以下のように Array など別のクラスを返す scope がよくあります。
scope :latest_users, -> { order(created_at: :desc).first(5) }
これだと scope メソッド同士での連結ができませんし、
一度 Array になってしまうと使い道にも制限が出てしまうので、あまり良くないと思います。
4-2. コメントを書く・テストを書く
上の 3-2. および 3-3. で指摘したことの逆ですが、
scope であってもコメントを書くこと、テストを書くことをルール化しておけば、
コードの可用性は多少マシになると思います。
4-3. メソッドチェーンが3つ以上になるならクラスメソッドにする
Webアプリケーションの運用を続けていると、
既存メソッドの条件が変わっていくことは往々にしてあります。
例えば、活動しているライター一覧を表示するページに使う scope が以下のようであったとして、
scope :active_writers, -> { where(deleted_at: nil, type: User.types[:writer]).order(updated_at: :desc) }
「最近記事を書いているライターに限定してほしい」という声があったときに以下のように変更するとしましょう。
scope :active_writers, -> { left_joins(:articles).where(deleted_at: nil, type: User.types[:writer]).where("articles.created_at > ?", 1.month.ago).order(updated_at: :desc) }
このときに、「これが1行で書かれているのは処理の内容としても、見やすさとしても、わかりにくいのでは?」
と考えて、scope でなくクラスメソッドに変更するのは大いにアリだと思います。
5. でも scope を使う必要ってある?
5-1. ActiveRecord::Relation と Array の違いがわからない問題
4. のように対応案を書きましたが、実は 4-1. の時点で難しいです。
ちゃんと Rails がわかる人がレビュアーにいるうちはいいのですが、
Article.order(:created_at).last(3)
と
Article.order(created_at: :desc).limit(3)
の返すクラスが違うと知らない人だけになってくると、4-1. のルールすら守られなくなってきます。
「いやいや、 .class.name
でつなげば何のクラスが返ってくるかわかるでしょ?」と思うかもしれませんが、
それはプログラミングに慣れている人の考えで、始めたての人はメソッドの返り値のクラスがなにかを意識していません。
5-2. DRY にしないほうが可読性いい説
scope は短いメソッドチェーンのものに限って使うのなら良いかもしれません。しかし、
scope :draft, -> { where(published_at: nil) } scope :active_writers, -> { where(deleted_at: nil, type: User.types[:writer]).order(updated_at: :desc) }
のような単純なものにしか使わないのであれば、そもそも scope を使わなくていいかもしれません。
controller で使われているときに「このメソッドは実際どんな定義なんだろう?」と model 側を見に行く必要が発生しませんし、
どんなSQLクエリが発行されるのか、メソッドチェーンを見るだけで想像しやすい利点があります。
処理の同じところがあればまとめたくなるのは、プログラマーとして健全な考え方ですが、
Query Builder に関しては、ベタ書きする方が
結果的に可読性が高くバグを起こしにくくなることも多いのではと考えています。
(これは賛否両論あるでしょう)
# scope 使用 @active_writers = User.active_writers.page(params[:page]).per(20) # scope を使わない場合 @active_writers = User .where(deleted_at: nil, type: User.types[:writer]) .order(updated_at: :desc) .page(params[:page]).per(20)
6. 結論
というわけで個人的には、
「たとえ、既存コードのコピペでコードのほとんどを書くエンジニアが引き継ぐことになっても、ある程度回るようにしたい」
という前提に立つのであれば、scope に関しては
scope
を使わずクラスメソッドを使うこと- メソッドには必ず yard に従ったコメントを付けること
- 各メソッドへのテストを書くこと
default_scope
は絶対に使わない(この記事で触れませんでしたが、バグの温床になりやすい)
あたりをルールとしてコードを書くかなあ、と思います。
もちろん、コードレビューの環境がしっかり整っているならこういったルールがなくとも品質が担保されると思うのですが、
プロダクトが長く続くものという前提に立ったとき、
「たとえ会社のエンジニア採用能力が落ちて、今いる人が全員いなくなった後にコピペエンジニアしか残らなかった」という場合を考慮すると、
コードが無法地帯にならないためにはこういったルールを先んじて制定しておくと安心度が高まるかなと考えています。
フォーク元のリポジトリのプルリクエストにチェックアウトする
OSSへのコントリビュートをしていると、
フォーク元のリポジトリにプルリクエストが来ている際、そのコードの動作確認をしたい場合があります。
愚直にプルリクエスト作者のリポジトリへ飛んで git clone してくる方法もなくはないですが、面倒です。
現在のローカルリポジトリのディレクトリ内で事を済ませたいです。
以下のようにします。
1. git でおこなう場合
git fetch mainstream pull/1234/head:pr-1234
git checkout pr-1234
mainstream
の部分は、フォーク元のリポジトリをどう名付けているかによって変わります。
私は以下のように mainstream
と名付けていますのでそれを使っています。
git remote -v mainstream git@github.com:materializecss/materialize.git (fetch) mainstream git@github.com:materializecss/materialize.git (push) origin git@github.com:nekonenene/materialize.git (fetch) origin git@github.com:nekonenene/materialize.git (push)
1234
の部分は、目的のプルリクエストID番号に合わせてください。
後ろの pr-1234
の部分については、ブランチ名をどうしたいかなので、ここはご自由に。
gh コマンドを使うともっと楽ができます。
2. gh でおこなう場合
2020年2月に GitHub が新しくリリースしたCLIツール『gh』を使うことで、より簡単におこなうことができます。
まだ使っていない方は、インストールと初期設定を済ませてください。
(Mac をお使いであれば、brew install gh
でのインストール後、gh auth login
で初期設定完了です)
フォーク元のリポジトリが https://github.com/materializecss/materialize であるとした場合、以下のコマンドで完了です。
gh pr checkout 1234 --repo materializecss/materialize
この1行で新しいブランチの作成と、そのブランチへのチェックアウトまでおこなってくれます。
とっても便利ですね!
gh コマンドを使うことはないと思っていましたが、
この便利機能だけで相当満足なのでインストールしました。レビューが捗ります!
Rails 5 から Rails 6 へアップデートした際の手順
以前 Rails 4 を Rails 5 に上げる記事を書きましたが、
同様に Rails 5 から Rails 6 へ上げる作業をおこないましたので、詳細を書きます。
1. なぜ上げたかったか
Rails 5 に上げた記事にて『Ruby 2.6 にした場合に deprecation warning が出てしまったこと』をバージョンアップの理由に書きましたが、
Rails 6 に上げた理由も実は同様で、Ruby 2.7 にした場合に deprecation warning が出てしまうため でした。
/bundle/ruby/2.7.0/gems/activemodel-5.2.4.4/lib/active_model/translation.rb:67: warning: Using the last argument as keyword parameters is deprecated; maybe ** should be added to the call /bundle/ruby/2.7.0/gems/actionview-5.2.4.4/lib/action_view/helpers/form_helper.rb:755: warning: Using the last argument as keyword parameters is deprecated; maybe ** should be added to the call /bundle/ruby/2.7.0/gems/actionpack-5.2.4.4/lib/abstract_controller/helpers.rb:67: warning: Using the last argument as keyword parameters is deprecated; maybe ** should be added to the call
上のように、Ruby 3 で廃止される予定のキーワード引数の記法について deprecated warning が出ます。
(詳しくは Ruby 2.7 のリリースノート をご覧ください)
これに対応する修正は Rails 5 ではおこなわれていなく、
Rails 6.0.3 にておこなわれています。(プルリク: https://github.com/rails/rails/pull/37935 )
というわけで Ruby 3 が来ることも見据えて、Rails 6 に上げておきたかったわけです。
2. 下準備
config/application.rb
のconfig.load_defaults
を 5.2 にまで上げる
(Rails 5 に上げたときではconfig.load_defaults
が 5.0 だったので、そこから差分を見つつ慎重に上げていった)- その当時での最新の Rails 5.2.4.4 にアップデート
- 各種 gem をできるだけ最新バージョンにアップデート
3. Rails 6 に上げた際の作業内容
3-1. bin/rails app:update
Gemfile
内の rails バージョンを 5.2.4.4 から 6.0.3.3 に書き換えたのち、
bundle update rails
その後、
bin/rails app:update
で config ディレクトリ内のファイルをいくつか更新しました。
3-2. utf8_enforcer_tag メソッドの上書きについて削除
config/initializers/disable_utf8_enforcer_tag.rb
として以下のようなファイルを置いていたのですが、
config.load_defaults
を 6.0 にしたあとは不要になったので削除しました。
# Internet Explorer 5 対応で utf8=✓ がクエリに付く問題の解消。Rails 6 では default_enforce_utf8 オプションが false (デフォルト)であれば不要になる module ActionView module Helpers module FormTagHelper def utf8_enforcer_tag "".html_safe end end end end
3-3. Zeitwerk の挙動を考慮し Inflector の設定
こちらの記事がわかりやすいのですが、
Zeitwerk ではファイル名から名前が推測されます。
例えば class DailyKPI
や class MonthlyKPI
などのクラス定義がある場合、
ファイル名が daily_kpi.rb
だと Zeitwerk 的には「DailyKpi
ってクラス名があるのかな?」って探すのだけれど見つからないのでエラーになります。
このエラーを避けるには、 config/initializers/inflections.rb
に以下のように指定してあげる必要があります。
ActiveSupport::Inflector.inflections do |inflect| inflect.acronym "KPI" end
「Kpi って記すところもあるんだよなぁ〜」って場合には、
config/initializers/zeitwerk.rb
などの名前でファイルを作って、
Rails.autoloaders.each do |autoloader| autoloader.inflector.inflect( "daily_kpi" => "DailyKPI", "monthly_kpi" => "MonthlyKPI", ) end
と、必要なところだけ、ファイル名と名前の関係性を作るということも可能です。
3-4. redis-rails の使用をやめる
You're using a cache store that doesn't support native cache versioning. Your best option is to upgrade to a newer version of ActiveSupport::Cache::RedisStore that supports cache versioning (ActiveSupport::Cache::RedisStore.supports_cache_versioning? #=> true).
上記のエラーが出たので調べて、
Rails 5.2 から redis が Rails に内蔵されるようになっていたことを知ったので、
redis-rails の使用をやめて redis_cache_store を使うよう変更しました。
redis-rails の最後のリリースって、2017/04 なんですね……。
https://rubygems.org/gems/redis-rails/versions
redis-rails を Gemfile から取り除いて bundle install
したのち、
以下のように config を変更しました。
# before config.cache_store = :redis_store, ENV["REDIS_URL"], { expires_in: 1.hour } # after config.cache_store = :redis_cache_store, { url: ENV["REDIS_URL"], expires_in: 1.hour }
4. Rails 6 へのアップデートを終えて
Rails 5.2 から Rails 6.0 へのアップデートは、予想していた通り、
Rails 4 → Rails 5 へのアップデートよりもずいぶんとカンタンに終えられました。
Rails 6 へのアップデートを終えたことにより、
今後の Rails バージョンアップだけでなく Ruby のバージョンアップにも追従しやすくなりました。
Rails 5.2 をお使いの方は、ぜひ Railsガイドのアップグレードガイド を読みつつ、
Rails 6.0 へのアップデートをおこなってみてください。
Zeitwerk の挙動と、cookie 情報の後方互換性のない変更あたりに気を付ければ、だいたい大丈夫かと思います。